鉄欠乏と言われると「貧血」をすぐに連想するように鉄欠乏性貧血という疾患が最も有名です。
鉄は赤血球の主成分であるヘモグロビンの材料です。欠乏が進行していくとヘモグロビンが作れなくなり、赤血球の数が減少します。
赤血球は全身に肺から酸素を運搬する役目を果たしているため、赤血球数が減少すれば、運搬する酸素の量が減ってしまい、身体中の組織で上手く代謝が進まなくなり、様々な不都合が出現します。
一般的に鉄欠乏はこのように理解されていますが、人間の細胞の中にはミトコンドリアというエネルギーを生み出す器官があります。鉄はこのミトコンドリアの代謝に関わっているため、鉄が不足するとエネルギーが生み出せない事になります。
人間の体で骨格筋、心筋、肝臓、脳は特にミトコンドリアが多く含まれている組織です。また脳内の神経伝達物質であるセロトニン、メラトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンはその合成過程において鉄が必須物資でもあるため、うつ病や睡眠障害の原因にもなります。
鉄欠乏が身体に及ぼす症状
- 血液への影響
赤血球減少による貧血 - 骨格筋への影響
筋肉疲労、易疲労感、疲れやすさ - 皮膚、粘膜への影響
スプーン爪、脱毛、あざ、歯の出血、口角炎、口内炎、舌のしびれ、咽頭部違和感(のどが詰まった感じ)、湿疹、氷を好む - 脳内神経物質への影響
抑うつ状態、食欲不振、睡眠障害、集中力の低下、情緒不安定、注意力低下 - 女性、小児への影響
乳幼児、学童期などは身体の成長を伴うため、より多くの鉄を必要とします。また女性の場合は、生理で毎月大量の血液を失うため、それと同時に鉄も失います。そのため鉄欠乏症の危険性が非常に高くなります。 - 小児
集中力持続の欠如、それに伴う学業成績の低下、居眠り、情緒不安定など - 女性
動悸、息切れ、めまい、肩こり、頭痛、抑うつ状態、睡眠障害、疲労感など
鉄欠乏症の注意点
鉄欠乏症は貧血をきたして眼瞼結膜蒼白や爪のスプーン状変化など、特徴的な症状が見られる場合には血液検査を行います。ただし上記症状に対して疑いを持たなければ血液検査を施行しないため、発見が遅れたり、指摘が難しいことがあります。
鉄欠乏症の検査
主に血液検査で血清鉄、フェリチンの測定を中心に行います。ただ鉄の動向は、年齢、性別や、その他の疾患などにより変動するため、検査に関しても総合的な判断が必要となります。
当院での検査項目
一般血液検査 + 血清鉄、フェリチン
ピロリ菌の有無(鉄の吸収障害の原因となるため)
他疾患の除外目的での各種検査(診察により選択)
鉄欠乏症の治療
基本的に欠乏している鉄を補充する事が中心となります。日々の食事で補充ができればいいのですが、それでは補充しきれない場合は薬剤やサプリメントによる補充を行います。また他に原因がある場合を除外する必要があります。
鉄欠乏の原因となる疾患
がんなどの悪性腫瘍
胃潰瘍などの出血性疾患
ピロリ菌感染による吸収障害
鉄の必要量
鉄は身体に3~4gほど存在しており、汗や便などの排泄物として1mgほどを毎日失っています。鉄の吸収率は10~20%のため、毎日10~15mgほどの鉄を摂取する必要です。ビタミンCなどを同時摂取すると吸収率が上がる半面、コーヒー、紅茶、緑茶に含まれるタンニンは鉄吸収を阻害します。
治療目標
鉄の補充を行う事で、困っている症状の改善がみられるようにするのが目標となります。補充量にもよりますが、2ヶ月から6ヶ月ほどは継続した内服を行ってもらう必要があります。また鉄の種類により吸収量が変化するため、当院からのサプリメントをお勧めする場合もあります。
もし、はっきりとしない症状でお悩みの方がおられましたら、鉄欠乏の可能性も考えてご相談ください。